みなさん、こんにちは!
今回は、『ペットの慢性腎不全』についてお話してみたいと思います。
ペットも長寿に。「慢性腎不全」は加齢に伴う慢性疾患
近年、医療の進歩により、私たち人間の寿命が延びているのと同様にペットの平均寿命も延びてきています。
ペットも高齢になると身体機能や免疫力が低下し、それまでの生活習慣が引き金となり、加齢に伴う慢性疾患(徐々に発症し、治療にも長期間を要する疾患の総称)を招きます。今回はその代表的な疾患の一つである「慢性腎不全」についてお話したいと思います。
お話を進める前に、まず「慢性腎不全」と「急性腎不全」の違いは何でしょうか?
どちらも腎機能の低下あるいは全く機能しなくなる状態であることに変わりはないのですが、急性腎不全は数時間から数日の経過で起こり、治療が期待できるのに対し、慢性腎不全は数カ月から数年の経過で起こり、完治することはありません。
■腎臓はどんな臓器?
腎臓は背中側にあるソラマメ型をした臓器で、左右に1つずつあります。
腎臓にはさまざまな機能がありますが、その代表的なものは尿を作ることです。
摂取された食物は消化管で吸収され、この過程でアンモニアなどの老廃物が作られますが、これが体内に溜まると様々な症状が引き起こされるため、尿として適切に排泄される必要があるのです。
一方、水分や体液量を調節する作用もあるので、必要な水分は体内にとどめ、不要な水分を尿中に排泄します。
また血圧の調節やエリスロポエチンという造血促進ホルモンを作っており、骨髄に作用して赤血球が作られるのを促します。
慢性腎不全になると、これらの機能が障害されてしまうわけです。
■慢性腎不全の症状は?
慢性腎不全の主な症状は、初期では多飲多尿(お水を飲むことが多くなり、おしっこをたくさんします)が見られ、これ以外に目立った症状はありません。
しかし、腎臓の機能低下が進んでくると多尿にもかかわらず、老廃物や余分な電解質・ミネラルなどを尿中に排泄することが出来ず、体内に溜まってきます。
多尿により失った水分を補うためにたくさん水を飲んでもすぐに尿になって出てしまい、脱水を引き起こします。
これによって食欲や元気が低下し、毛艶も悪くなります。
また嘔吐や下痢、便秘も見られ体重が減少します。
さらに進行してくると高血圧や貧血に陥り、高血圧に伴う目の症状(網膜剥離、眼底出血など)や貧血に伴う諸症状(疲労、倦怠)が現れ、末期になると老廃物の蓄積やミネラル・電解質の異常、貧血などが重度となり、痙攣(けいれん)や昏睡状態に陥ることがあります。
原因は、脱水や貧血・心不全などのため、腎臓に流れ込む血液量が変化したり、歯周病や感染症などから波及する場合もありますが、ほとんどは年齢と共にゆっくりと時間をかけて腎臓の機能が低下していくことで発症します。
慢性腎臓病の治療は、「機能を温存する」こと。早めの治療開始が肝要
残念ながら慢性腎臓病を治す方法はありません。
一度機能を失ってしまった腎臓を元通りに回復させることはできないのです。
そのため,治療は「残っている腎機能を温存する」ことに力を注ぐことになります。
腎臓はその機能の3/4(75%)を失って初めて症状が出るとも言われ、早期診断が困難であるため、症状が出る前にいかに診断し、治療を開始するかがポイントになります。
そのためには,定期的な健診や検査をお薦めします。
中年齢以上で「水を飲む量や尿の量が増えた」「食欲が落ちて痩せてきた」などの症状が見られましたら,早めにご相談ください。
■日々の診察での尿検査、血液検査が有効
慢性腎不全の診断に必要な検査ですが、尿検査・血液検査は日々の診察で行うことの多い検査でとても有効なものです。
まず尿検査ですが、尿の採取は自然排尿、圧迫排尿、カテーテル挿入など色々な方法がありますが、動物に負担なく出来る自然排尿が最も一般的です。
慢性腎不全では、特に尿比重と尿タンパクに注目します。
尿比重は尿の濃縮程度を示しており、水を1.000とした時の尿の濃さを数値で表したもので、高比重なら濃い尿、低比重なら薄い尿と腎機能を評価するのに役立ちます。
また、尿は血液を腎臓のフィルター構造でろ過して作られていますが、通常、タンパクは尿中に出ていくことはないのですが、腎臓の機能低下でタンパク尿が認められることがあります。これは腎臓以外に原因があって起こるケースもあるので、慎重に判断する必要があります。
次に血液検査ですが、血液尿素窒素(BUN)、クレアチニン、電解質(ナトリウム・カリウム・クロール)カルシウム、リン等に注目します。
BUNは血液中の尿素量を表しており、腎機能の低下に伴って血中濃度が上昇します。
クレアチニンは筋肉由来の窒素化合物で、腎機能の評価に有用です。
これらが上昇していたら腎臓の機能はかなりの障害を受けていると解釈されます。
BUNやクレアチニンの異常値に伴い、電解質やカルシウム、リンも加えてより詳細に障害の程度を判定していきます。
この他、X線検査や超音波検査も併せて腎臓の大きさや形状、結石・嚢胞・腫瘍の有無などの観察も必要です。
■治療は? お薬は?
慢性腎不全の治療ですが、主に食事療法・輸液(点滴)療法・薬剤の使用が挙げられます。
食事中のタンパク質とリンの制限は、慢性腎不全の動物に対して進行を遅らせる効果があり、各メーカーから出ている療法食が推奨されます。
動物は食事からも水分を摂取しているので、慢性腎不全で食欲不振になると脱水が進行するケースが認められます。
輸液療法は、非経口的に水分を体内へ補給することにより脱水の進行を改善し、慢性腎不全の悪化を遅らせます。
使用する薬剤ですが、高純度の炭素からなる経口吸着剤を投与すると消化管で尿毒素を吸着し、便と共に排泄します。
さらに、ACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)は慢性腎不全の治療において最も使用されている血圧降下剤です。
これは尿へのタンパク質の漏出を抑制し、血管を広げて腎臓内の血圧を下げることで腎臓への負担を軽減することが期待できます。
また、慢性腎不全では進行性の貧血が起こります。
これは腎臓で生成されるエリスロポエチンという造血ホルモンが、腎臓機能の低下と共に産生能力も落ちてしまうからです。
そのためエリスロポエチンを投与します。
慢性腎不全は完治する病気ではなく、腎臓の負担を減らし、進行の速度を遅らせ、QOLを向上させることが治療の主体となります。
他の病気と比較をしても、長期にわたり通院・治療が必要になってきますので、飼い主さんの精神的な負担も大きくなります。
だからこそ早期発見・早期治療が大切で、予後に大きく影響するため、日頃の健康診断が重要と言えます。
それでは、また…。
Have a わん&にゃんderful day
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■筆者紹介
永田浩之
獣医師
のっぽ動物病院 院長
神奈川県獣医師会湘南支部長
湘南臨床研究会会長
鎌倉市生まれ
神奈川県立七里ガ浜高等学校卒業
北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業
北里大学大学院修士課程獣医畜産学専攻修了
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