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#カルチャー #地元ニュース

「江の島弁天橋屋台の灯」は、江の島の在りし日の記憶

2024.12.21 注目

江の島、湘南舞台の作品を執筆、公開
著者・森園知生さんの、創作作法

片瀬浜から江の島へと延びる弁天橋。現在の形の橋が架けられたのは1957年、以前ここにおでんやの屋台村があったことを知っていますか。

当時の弁天橋、おでん屋台村(写真/藤沢市文書館)

藤沢市文書館からお借りした当時の写真には、確かに江の島に向かって橋の左側に、屋台が一列に並んでいます。江の島のてっぺんには、2002年完成の江の島シーキャンドルはまだなく、旧江の島灯台が顔を出しています。
この江の島のおでん屋台村で語られるエピソードを集めた「江の島弁天橋屋台の灯」が、今年9月に刊行されました。

弁天橋にて、森園さん

著者は、七里ヶ浜在住の森園知生さん
「私もおでん屋台に通ったひとり。出店の権利は一代限りで、引き継ぐことができず、店主が引退した屋台から次々に消えていきました。最後の屋台は2011年ころまでありましたかね」
その風情をおでんの味とともに記憶に留めておきたいと、話をまとめたとのこと。

作中の「私」(森園さん?)が通うのは、赤い提灯のさがった、店主の女将がいる屋台「磯花」。そこで交わされるさまざまな人生の裏話。
終戦間際、人間魚雷で戻る術のない出撃をした佐藤さん。1964年東京五輪会場となった江の島を追われ数奇な運命を辿った漁師・源蔵さん。地元サーファーが江の島のシークレットポイント海中で遭遇した何か…。
屋台のお客が語る奇妙で不思議な話は、「私」の目と耳を通してフィクションの枠を超えリアルに響きます。実話や実在する人物をベースにしているための脚色もあるとのこと。

1955年東京生まれ、青山学院大学卒。サザンオールスターズの桑田佳祐さんとは同期ですが、学内で会ったことはないそう。卒業後自動車メーカーに就職、30歳のころに鎌倉の七里ヶ浜に居住し、以後40年近く住み続けています。
「湘南は文化的な土地だと思います。アーチストも多いですし。ここに住んでいなかったら文章を書くことはなかってでしょうね。良い土地だと大学の後輩を招いて、みんなここに住むようになって。それじゃと遊びで『えのしま探検隊』ってのを作ったんです。そんなに探検したわけじゃないけど、江の島のあちこちに行って、漁港のあった西浦でバーベキューしたり。映画も作りたかったんですが、大変そうなので、季刊で冊子を作ることに。タイトルは『探検隊』、4人いたメンバーの1人が作った名前だけの出版社・夕日書房(現在は正規の出版社となっている)から1988年8月発行、創刊号のテーマは『海』でした」
地域情報や雑学的なものを掲載、森園さんは短編小説を担当、ショートショートの作品などを執筆し、これによりだんだん小説を書く面白さにはまっていったそうです。刊行は7、8年、30号ほど続きました。
「文学賞に応募するようになって、『オール讀物新人賞』の最終選考に残ったこともあります。絶対に小説家になろうと、会社を辞めることも考えました」

「探検隊」は毎月、いろんなテーマで制作。左上が創刊号

地元を舞台にした作品を数多く書いている森園さんですが、書店で販売したのは1冊だけ。「江の島弁天橋屋台の灯」ほか何冊かは、Amazonで行っているKindleダイレクト・パブリッシングで販売しています。電子書籍版か、注文1冊ごとのオンデマンドでの出版。書店には並ばない形式ですが、自費出版と違い費用はかからないといいます。森園さんはこの形式で他に4冊の出版を行っています。
「ほとんどが鎌倉や江の島を舞台にした作品。その中で今年2月に上梓した『ラフカディオの旅』は、小泉八雲の名で怪談集や日本文化について著したラフカディオ・ハーンの没後120年の2024年を機に、その半生を辿ったものです」
ギリシャに生まれアイルランドで育ち1890年に日本へ。欧米人でありながら自身のアイデンティティを模索し続けてきたラフカディオが、鎌倉や江の島で強いインプレッションを受け、日本にとどまることを決めるストーリー。
「彼の生い立ちや、その後移住した南北戦争直後のアメリカでのエピソードなど、ずいぶん調べました。鎌倉の極楽寺や江の島弁財天の話も史実に基づいていますがフィクションも織り交ぜています」

湘南に住む人なら、馴染みのある地名や聞き覚えのある逸話。それ散りばめられている森園さんの作品たち。さらに森園さんのWEBサイトには、出版されていない作品や、自身の創作活動について、地元に対する思いなども綴られています。
「退職し、今は毎朝海に行き、写真を撮ってfacebookに投稿したりしています。かつて熱中していたサーフィンやウインドサーフィンは、体力的にもうやりません。昔の仲間にはなぜやらないんだ、と言われますけどね(笑)。
次の作品は…。現在スランプというか、書けない状況なんです。でも構想はあるんです。今でも直木賞とか狙っていますよ」

弁天橋の袂に立つ森園さんの後ろに、おでん屋の屋台がちょっと見えた気がしました。

森園さんのWeb公開作品や作品の舞台裏については、以下サイトへ。
森園知生の小説工房
https://morizonotomoo.com

 

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