動物病院院長、湘南の頼れる獣医師 ”のっぽ先生”による ペットの健康管理についての連載コーナー。ペット好きなら知っておきたい獣医学のお話です。
Vol.02「子犬の社会化」はこちら!
はじめまして!
大船で動物病院をしております、獣医師の永田です。
今月より連載をスタートすることになりました。
どうぞよろしくお願い致します。
さて、やっと梅雨が明けましたが、いきなりの猛暑ですね。
みなさんのペットくん達の体調はいかがでしょうか?
この時期ですので、『ワンちゃんの熱中症』についてお話してみたいと思います。
気温や湿度が上昇している不快なこの時期は、ペットくん達も体調を崩しやすくなります。中でも熱中症は、症状が重症化すると命の危険もあるとても怖い疾患です。
熱中症の原因と対処法を知るために、まずはじめに、体温恒常性維持の仕組みについて、熱放散の4つのメカニズムに触れてみます。
熱放散メカニズム① 「伝導」
これは身体に接する物体へ熱が移動していく現象です。
↑写真のように真夏にワンちゃんが冷たい床にべったりと寝そべっているのは、熱伝導により体温を下げようとしているためです。
熱放散メカニズム② 「対流」
体表をより温度の低い気体や液体が流れることで熱を奪っていく現象で、扇風機やエアコンなどが真夏に活躍してくれます。
熱放散メカニズム③「放射」
物体を介さず熱がエネルギーとして放出される現象です。
ワンちゃんが体表面積を増やし、お腹を出して伸びて寝ている姿を想像してみて下さい。快適な温度環境で安静時ならば、人もワンちゃんも熱伝導による熱放散は全体の数%程度であり、60~70%を対流や放射に依存しているそうです。
熱放散メカニズム④「蒸散」
打ち水をイメージすると理解しやすいと思います。水が蒸発する時に気化熱として、アスファルトから熱を奪っていますが、人で言うなら発汗です。しかし、ワンちゃんは人のように全身で汗をかくことはできません。したがってワンちゃんは主な蒸散の経路として、「ハッハッ」というパンティング(あえぎ呼吸)をすることで、唾液を蒸発させ、体内に蓄積された熱を気化熱として気道から体外に放出します。
人もワンちゃんも通常、熱放散の20~30%を蒸散に頼っていますが、外気温が体温を上回れば先に説明した三つの熱放散の仕組みは作動しなくなり、熱放散のほぼ全てが蒸散により行われることになります。高温に加え高湿度環境になれば、蒸散効率も大きく低下し、湿度が80%以上になれば蒸散による熱放散はもう期待することはできず、熱中症が進行します。
ワンちゃんの身体の反応としては、体表に熱を移動させるために全身の末梢血管を拡張させ、血流を大幅に増量することで、口腔粘膜の赤みが非常に強くなり、一方で腎臓や腸管への血流が相対的に低下し、主要臓器の致死的な虚血、ショックを招きます。この時、口腔内の強い赤味を元気なサインだと判断してしまうと、取り返しのつかない事態へ発展してしまいます。
🐾熱中症の注意すべき発生原因
気温、湿度、風などの気象条件・自動車内、散歩の時間などの夏場の環境・短頭種や上部気道に問題を抱えている熱放散の苦手な犬種や体形などの要因・厚い皮下脂肪が体表からの熱放散の妨げになる肥満体型などです。
🐾熱中症への対処法
人でも速やかに冷水に全身を浸すことで大幅に死亡率を低下できるとされている通り、冷却処置は熱中症に対する初期治療の主軸です。来院前に熱中症の可能性が高いと判断された場合、全身を水で濡らし、車内はエアコンを効かせて頂くなど、飼い主さん自身での冷却処置をお願いすることがあります。頚部や腋窩(前脚の付け根・ヒトで言う脇の下)、鼠径部(後ろ脚の付け根)に氷のうを当てて体温を下げます。家庭でも容易にできるため、日常的に準備しておくのも良いでしょう。また、水で濡らしたバスタオルで身体全体を覆うという方法も効果的ですが、あっという間に蒸しタオルになってしまうので、頻繁にタオルを交換し、エアコンや扇風機による効率的な熱放散を心掛ける必要があります。
熱中症は来院までの時間が長いほど予後が悪化する可能性があります。普段からリスクを避けるために、その発生のメカニズムや対処法を理解することで愛犬と楽しい夏を過ごすことが出来ます。
<aicco編集部より>気象庁もペットの熱中症について情報発信中!
日本気象協会では「熱中症ゼロへ」プロジェクトの一環として、犬や猫などのペットの熱中症についての情報をウェブサイト上で公開しています。
飼い主に向けた「イヌ・ネコの熱中症予防対策マニュアル」も発行しています。のっぽ動物病院 でもこのマニュアルを配布しているとのこと!(数に限りがあります)
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■筆者紹介
永田浩之
のっぽ動物病院 院長
獣医師
湘南獣医師会副会長
神奈川県鎌倉市生まれ
北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業
北里大学大学院修士課程獣医畜産学専攻卒業
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