年末年始の定番フルーツ いちごの季節!
でもホントは夏の季語? 栽培の始まりは寒川? 湘南名産のあれこれ
知り合いの中学生から「冬休みの俳句の宿題で、真っ赤なイチゴを詠んだら『いちごは夏の季語だよ』と注意されたんだよ~」といわれました。JAさがみの中でも、イチゴを栽培しています。出荷が盛んになるのは冬から春にかけての今の時季。「やっぱり、冬の味覚じゃん」って?ふくれていました。今回は、湘南の冬においしいイチゴが取れるわけを探ってみました。
案内人は、 JAさがみの農アンバサダー Lioさんです。
イチゴ栽培の歴史をたどると、なんと、新宿区にたどり着きました。明治31年、今の新宿御苑でイチゴの国産品種「福羽苺(ふくばいちご)」が誕生したといいます。はじめのうちは皇族専用の食べ物だったそうです。それだけ貴重だったんですね。
やがて、栽培方法が普及し、大正期には全国的に栽培されるようになりました。湘南エリアでイチゴ栽培が始まったのは、昭和2年の寒川町。「寒川は日本で初めて、農業としてイチゴを栽培した」ともいわれています。その後、海老名市でも導入し、昭和7年ごろには海老名市内で15戸の農家が栽培していたという資料もあるようです。
このころの栽培方法は、石垣栽培です。「社会科で、久能山の石垣イチゴって習ったよ」という人もいらっしゃるかもしれませんね。じつは、「静岡県の久能山へは、寒川の農家が教えに行った」という話もあるんです。
石垣栽培は、ゴロタ石やブロック板を垣根のように積んで、その間にイチゴを植えていく方法です。海老名市役所で再現した写真がありますから、ご覧ください。
イチゴは本来、夏に実をつける植物です。冬に食べられれば、付加価値も付けられます。もしかして、明治のころにもクリスマス需要があったのかもしれません。冬のイチゴを可能にしたのが、冬晴れの気候です。
冬、関東から東海にかけて、太平洋側は晴天が続きます。日が短い時期に晴れが続くというのは、とてもありがたいことです。冬でも洗濯物が乾きますし、ね。
この太陽を農業に利用すれば、冬でも農作物が作れます。そこで、冬の温かい気候を利用した農作物がいろいろ作られるようになりました。冬に採れる小カブや初夏の味覚「鵠沼カボチャ」といった露地野菜、それに鉢花、切り花などがその一例です。そして、イチゴも冬晴れの気候を利用して栽培しています。
冬の日中のイチゴの温室内は24℃~27℃。初夏の気温です。もちろん、燃料も使いますが、昼間は暑くなりすぎないようにと、窓を開けて調節するほど、冬の湘南地方は太陽光がいっぱい!
そんな気候を生かして、湘南エリアにはイチゴ農家が広く点在しています。JAさがみでも、全市町(藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町、綾瀬市、大和市、鎌倉市、座間市、海老名市)で栽培しています。
このなかで、海老名と藤沢は対照的なやりかたで、品質向上や出荷をしています。
生産組合(生産部会)を作って品質管理をしているのが、海老名いちごです。農家が力を合わせて、いいイチゴを作っています。栽培する品種や栽培方法なども、みんなで考えていいものを選びます。毎年、温室を巡回して、生育状況なども確認しあいます。
出荷するときも、規格を決めて、まとめて市場に出します。この方法を共選・共販といいます。市場でもまとまった量を取り扱えるので、有利に販売できます。共販イチゴは、海老名市が県内一の量を誇ります。
共販のライバルは、ほかの大産地です。海老名いちごは、ほかの大産地にない特長で勝負しています。
まずは、鮮度。イチゴは柔らかい果実ですから、長距離輸送が困難です。いくら輸送技術が発達し、どんなに心優しいトラックドライバーがハンドルを握っていても、長い間揺られていては、どうしても鮮度が落ちます。遠い産地では、少し早めに硬いうちに収穫して、輸送中に熟させていくケースも少なくありません。でも、海老名市など消費地に近いエリアでは、ぎりぎりまで実らせたまま熟したイチゴを、食卓に届けられます。
消費地に近い、ということは、消費者からの声も届きやすい、ということです。例えば「できるだけ農薬を減らして栽培してほしいなあ」という声にこたえて、海老名いちごが始めたのが「天敵利用」です。イチゴの害虫を食べてくれる虫(つまり天敵)を温室の中に放って、農薬を減らす技術です。
海老名では、平成12年に導入しました。海老名いちごのように、部会を挙げて導入した例は珍しかったといいます。今でも、海老名いちごのパッケージには「自然にやさしい天敵利用」という文字が描かれています。
一方、これとは対照的に、個人個人がそれぞれの知恵を出してオリジナルの栽培をしているのが藤沢市のイチゴ農家です。
藤沢のイチゴ栽培の歴史は意外と新しく、35年ちょっと。蓄積されたノウハウや、先輩農家もないなか、自らのパイオニア精神を頼りに、一人また一人と、イチゴ栽培の道に入っていきました。
なので、藤沢のイチゴはバラエティー豊かです。品種もそれぞれなら、生産者の経歴もさまざまです。
藤沢のイチゴは、市場には出しません。自宅の前に直売所を作ったり、わいわい市のような大型直売所に出荷したり、といった方法で販売しています。
藤沢の街の中を歩いていて、イチゴの直売所を見かけたら、ぜひ買ってみてください。街歩きしながら、いろいろと食べ比べてみて、お気に入りの「推しイチゴ」を探してみるのも、藤沢ならではの楽しみです。
昨シーズンから、神奈川県が開発したオリジナル品種「かなこまち」もお目見えしました。「ジューシーで甘酸っぱい」「コクがあって大粒」と、人気です。
ここ数年、さがみ産のイチゴを使った加工品も売られています。ジャムはもとより、アイスクリームやお菓子、ビールなどなど、いろいろあります。それどころか、イチゴのハンドクリームまで作られています。期間限定や数量限定のものもありますから、見かけたときが買い時です。
そうそう、冒頭の中学生には「『冬いちご』という季語もあるよ」と答えておきました。みなさんも、真っ赤に熟したさがみのイチゴを召し上がって、一句ひねってみてはいかがでしょう?
「この宵は誰が唇に冬いちご」 Lio
JAさがみHPには、湘南地区の野菜・農産物情報が満載です!
https://ja-sagami.or.jp
JAさがみは神奈川県のほぼ中央、湘南の自然と都市が調和した7市1町(藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町、綾瀬市、大和市、鎌倉市、座間市、海老名市)をエリアとし、農業生産物を柱に地域のに貢献する様々な取り組みを行っています。執筆者のLioさんは、JAさがみの農アンバサダーとして、HPや各メディアで発信を行っています。