湘南ママたちから絶大な人気と信頼を誇る、認定子育てアドバイザーの宗藤純子先生がおすすめする絵本のコーナー。
今回は昔も今も愛され続ける松居直氏が手掛けた絵本をご紹介します。
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去る11月2日、戦後の児童文学界を牽引し、多くの絵本作家を育ててきた福音館書店相談役の松居直(まつい・ただし)氏が96歳で逝去しました。
松居直氏は、幼いころ大好きだった絵本「ぐりとぐら」を世に出した編集者で、私の絵本の世界を豊かに広げてくれた方です。心よりご冥福をお祈りいたします。
また、10月に届いた画家の山脇百合子さん(旧姓おおむらさん)の訃報も、私にとって哀しい知らせでした。代表作「ぐりとぐら」「いやいやえん」等、親しみある絵は、これからも多くの子ども達の心にやさしく寄り添ってくれることと思います。ご冥福をお祈りいたします。
なかがわ りえこ 作 / おおむら ゆりこ 絵 福音館書店
ぐりとぐらは森で大きな卵を見つけました お料理することと食べることが何より好きな野ねずみのぐりとぐらは、森で大きな卵を見つけました。目玉焼きにしようか卵焼きにしようか考えたすえ、カステラを作ることにしました。でも、卵があまり大きくて運べません。そこでフライパンをもってきて、その場で料理することにしました。カステラを焼くにおいにつられて、森じゅうの動物たちも集まってきます……。みんなの人気者ぐりとぐらは、この絵本から生まれました。 (出版社より) |
松居氏は福音館書店設立に参画し、1953年に子どもに関わるすべての人たちを応援する月刊誌「母の友」を創刊(下記は現在の12月号母の友)しました。
また、1956年には、子どもたちの自由な発想をはぐくむ、月刊の絵本をつくりたいと考え、月刊物語絵本「こどものとも」を創刊しました。
『ビップとちょうちょう』与田 凖一 作 / 堀 文子 画 福音館書店
創刊号は「ビップとちょうちょう」こどものとも 1956年4月号画像の絵本は私の私物で復刻版の絵本です。(以下出版社より)ビップぼうやは蝶々をさがして、水の坊やに教わり、つくしの坊やに教わりながら、うつくしがはらにやってきました。そこには蝶がいっぱい。ビップは蝶を捕まえますが、蝶はぐったり動かなくなりました。ビップの心臓は「どっきん」と鳴り、空も薄暗くなりました……。子どもの感情の経験をリズム感ゆたかなお話で展開する絵本。 |
幼少期だけでなく、幼稚園教諭時代そして母親になってからも、私の本棚には松居直氏が編集した絵本が所せましと並んでいました。
また、幼稚園教諭時代には、松居氏の講演会を受講したこともあります。彼の話を聞くと、まるで子どものころに戻ったように『絵本の森』へと導かれました。
〜子どもに読ませるより読んでやってください 物語られることが子どもの成長には大切です。 物語られることばは心にはいり気持ちが動かされます。 感動したり、不思議さを感じたり、さまざまに気持ちを、動かすことばは子どもの心を養い育てます〜 (『子どもの本・ことばといのち』より) |
「絵本は子ども自身に読ませるものではなく、大人が子どもに読んで、語ってあげるものだ」と松居氏は度々語っていました。
そうすることで、語る大人と聞く子どもが一冊の絵本を介して、絵本という『ことばの世界』を手をつないで旅をするのです。
松居氏が大事にしてきた「ことば」については、2022年9月に出版された「私のことば体験」という本でも語られています。
絵本はここから始まった…松居直自伝敗戦後、子どもたちが心から楽しめる本がなかった日本で、絵本の世界を作り上げてきた松居直。その根底にはことばへの思いがありました。福音館書店創立70周年を記念して刊行された本書を通して、子育てに関わる方だけでなく、ことばに関わるすべてのみな様に、ことばを育むことの大切さや絵本に込められた思いをお伝えできたらと考えております。本書は月刊誌「母の友」2009年4月号~2011年3月号の連載をまとめたものです。(出版社より) |
数多くの名作を世に送り出した松居直氏。彼が絵本作りに心を注ぐ間に、多くの子どもが大人になり、親になりました。
ここで、現在も親子に読み続けられ、愛されている絵本をご紹介します。
「こどものとも」から生まれた、今なお愛されるロングセラー絵本
『おおきなかぶ』内田 莉莎子 訳 / 佐藤 忠良 画 福音館書店
『だるまちゃんとてんぐちゃん』加古 里子 作・絵 福音館書店
『しょうぼうじどうしゃじぷた』渡辺 茂男 作 / 山本 忠敬 絵 福音館書店
小さくたって大活躍!元気がでる乗り物絵本 高いビルにはしごをのばして火を消すことのできる、はしご車ののっぽくん。たくさんの水で激しい炎も消すことのできる高圧車のばんぷくん。けが人を運んで助ける救急車のいちもくさん。大きくて立派な働きをするみんなに、小さな消防自動車じぷたは「ちびっこ」あつかいされていました。ある日、山の中で火事が起こりました。このままでは山火事になってしまいます。そんなとき、出動を命じられたのはなんとじぷたでした……。(出版社より) |
『いやいやえん』中川 李枝子 作 / 大村 百合子 絵 福音館書店
元気な保育園児しげるが主人公の楽しいお話 元気だけど、わがままできかんぼうの保育園児・しげるが主人公のお話集。しげるがなんでもいやだ、いやだと駄々をこねて、「いやいやえん」に連れてこられる話、しげるたちが積み木でつくった船でクジラをとりにでかける話、山のぼりで山の果物を食べすぎてしまう話、赤いバケツをもって保育園にやってきた小ぐまの話など、全部で7つのお話がはいっています。1962年に出版されて以来、多くの子どもたちを夢中にさせた童話の傑作。(出版社より) |
松居氏自ら手掛けた、絵本の文や再話
『ももたろう』松居 直 文 / 赤羽 末吉 画 福音館書店
1965年、絵本『ももたろう』でサンケイ児童出版文化賞を受賞。その後、1993年出版界で初めてモービル児童文化賞 (現・ENEOS児童文化賞) を受賞。1996年日本児童文芸家協会より「児童文化功労者」の表彰を受けました。1997年には AVACOのキリスト教視聴覚教育賞を受賞しています。 |
『ぴかくんめをまわす』松居 直 作 / 長 新太 絵 福音館書店
信号機のぴかくん、忙しすぎて……大変です! 信号機のぴかくんは黄色い光をつけたり消したりしながら、うとうとねむっていました。朝、交番のおまわりさんがぴかくんをおこしにやってきました。「今日も忙しくなりそうだけど、頼むよ」朝の出勤時間は大忙しです。交差点では、ぴかくんが規則正しく信号をおくっています。青・黄・赤、青・黄・赤……。でもあらあら大変、あんまり忙しくて、ぴかくんは目を回してしまいます。人も自動車もごちゃごちゃになって、町は大混乱!(出版社より) |
『だいくとおにろく』日本の昔話
松居 直 再話 / 赤羽 末吉 画 福音館書店
橋をかける大工と目玉が欲しい鬼の取り引き 何度橋をかけてもたちまち流されてしまう川に、橋をかけるよう村人に依頼された大工が、川岸で思案していると、鬼が現れて、目玉とひきかえに橋をかけてやるといいます。いいかげんな返事をしていると、2日後にはもうりっぱな橋ができあがっており、鬼は目玉をよこせとせまります。「おれのなまえをあてればゆるしてやってもええぞ」と鬼がいうので、大工は……。日本の昔話の絵本。(出版社より) |
松居直氏とブックスタート
松居氏は、NPOブックスタートの設立と同時に、理事長に就任し組織運営に関わりました。ブックスタートとは、子どもと保護者が、絵本を介して、ゆっくり心ふれあうひとときを持つきっかけをつくる活動です。1992年に英国バーミンガムではじまり、日本では2000年の「子ども読書年」をきっかけに紹介されました。現在では地域の子育て支援運動として各地に広がっています。
藤沢市でも、1年6か月児健診を受診する子どもと、その保護者を対象に、子育て企画課・健康づくり課・総合市民図書館・ボランティアの連携のもと、ブックスタート事業を実施しています。
松居氏は、「赤ちゃんは語りかけられた言葉を全身で受け止める――。」と語ります。そして、言葉を越えた気持ちの通い合いは、子どもの発育において、さらには人間が生きていく上で、欠かすことのできないものになると考え、次のように語っています。
「『ブックスタート』は、絵本を普及するための活動ではありません。言葉の世界そのものである絵本に、『お幸せに』という思いと言葉を添えて手渡し、共に生きることを願うものです。子どもの人生の出発点に“歓びを共にする”という経験を贈ること。ブックスタートは、これからの時代においても、そのことに力を尽くさなくてはならないと思っています。」
デジタル化が進み、赤ちゃんや子どもが絵本を開く機会が少なくなってきていますが、絵本を大人が子どもに読んであげることで、素敵な世界を共有できます。
昔、子どもだった皆さんが大好きだった絵本を、ぜひ子ども達に読んであげてください。
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ーーー筆者紹介ーーー 宗藤純子(むねとうじゅんこ)
藤沢市在住30年。都内私立幼稚園教諭・主任9年を経て保育士・
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・鎌倉市産科診療所「ティアラかまくら」
・「子育ては個(性)育て。己育て」人間教育を軸に行政・
幼小中学生、年齢に応じた「いのち・こころ・からだ」
・保育者向け雑誌「POT」
・株式会社OfficeLadybird代表取締役
◆Web サイト:http://junkomuneto.com
◆子育ての会ベビーぴよぴよ012連絡帳
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