電車だけじゃない
不確かな時代に、みんなの「エノデン」として
地元とともに
鎌倉〜藤沢間のたった10kmを走る江ノ島電鉄。でもコロナ前は年間2000万人が乗車し、世界的にも愛されています。代表取締役社長の󠄀楢井進さんは、初の生え抜き社長として2018年に就任。江ノ電愛、地元愛、そしてこれからの地域交通について、語っていただきました。
aicco 私も高校時代、江ノ電を利用して通学していました。江ノ電は台風でもなんでも止まらない。止まれば学校行休めたのに、なんて思ったこともあります(笑)
楢井さん 東海道線は今や埼玉とか宇都宮の方まで繋がっていますから、長い路線のどこかで何かあれば、連携して止まりますし、止めざるを得ないんですね。一方で江ノ電は全長10km。もちろん安全運転してますので何かあれば止めますけど、アナログの強みと言いましょうか、止まることが少ないですね。
でも、オーバーツーリズムといいますか、コロナ前は年間2000万人の観光客が訪れて、いつでも混んでいる、遅れる、という指摘を受けておりました。実際、混雑での乗り降りでの遅延や、乗り切れずに次の電車を待つ、なんてことがしばしばありました。沿線住民の方は、休日は外出を諦める、なんてこともあったようです。
2両編成を4両にしたり、椅子の配置を換えるなどの改良や、カーブを減らしてスピードアップを図るなどの改善を行ってきましたが、なかなか解消されない。ところがコロナ禍で観光客が減ったら混雑はなくなっちゃった。実のところ、利用客が54%に減って、それが地元の方の利用割合だと分かったんです。でも交通機関は休業や減便ができない。移転も無理、地域に根差し頑張るしかない。地元と一蓮托生なんですね。
コロナが落ち着きを見せる中、また観光客も戻ってきていますから、その対応も早急に行う必要があります。すでに旧鎌倉市街は混雑が始まっていますから、いかに乗客を分散させて、渋滞しないように流すか、なんです。
平日、休日とか、時間帯、人が動くコースで集中させないようにしていく。昼間は鎌倉、夕方から江の島に来てもらい、藤沢から帰っていただくとか。
これまで、行政エリアの違いで、鎌倉は鎌倉、江の島は江の島、という感じでアピールがなされてきた部分もあるのですが、来られるお客さんにしたら一体のエリアなんですね。
aicco 移動の問題で言えば、例えば鵠沼から辻堂にいくような時、車で行けば10分程度なのに、交通機関を使うとかなり行きづらいなんてこともあります。バスの本数も少ないとか。
楢井さん 地域交通、移動手段の問題は、今や世界的な課題になっています。MaaS(Mobility as a Service)と言って、様々な種類の輸送サービスを需要に応じて利用可能な単一のサービスに統合することが進められていますが、先進國であるフィンランドのヘルシンキでは、スマホアプリで電車、バス、タクシーなど様々な交通手段が目的地への移動が一連で利用できたり、均一料金で使えたりするんです。
江ノ電は、実は売り上げに占める電車の割合は30%なんです。バスが50%、残りが江の島など観光事業と不動産事業。もはや鉄道会社じゃないですね。最近ではレンタサイクルの事業も行い交通定期利用者への割引サービス実験も行っていますが、バスの終点にサイクルポートがまだないなど、整備はまだまだです。
それに湘南版MaaSへの取り組みは江ノ電だけでできるものではなく、他の鉄道、バス会社やタクシー会社などの連携も必要です。そのような協業の構想を進めていますが、やはり行政の主導が必要、関わる藤沢市、鎌倉市が一緒のテーブルについて協議していく必要があるでしょうね。
江ノ島電鉄の創業は1902年。そもそも、なぜ江ノ電ができたか。
江戸時代中期まで、鎌倉はさびれた漁村だったんです。それを当時の江島神社の神官や島民の皆さんが江の島と鎌倉見物のプロモーションを行うことになり、大山詣でとセットにして人々に来てもらおうと、江戸の浅草、深川で一大キャンペーンを行ったんです。明治になってそれをさらに発展させるために、藤沢・鎌倉間に線路を引いたのが始まり。そんなことを新入社員に話したりもします。地元あっての江ノ電だと。
この120年に戦争があったり震災があったりで、会社も大変な時期もありましたが、コロナ禍の今が一番厳しいですね。でも江ノ電には鎌倉、江の島などの資源があります。リモートワークの昨今、藤沢市は関東地区で最も移住の多い街でもあります。今社員に、地元密着の新しい事業プランを募っています。まだ発表できませんが面白いものもありますよ。
aicco 江ノ電の新しい展開、楽しみですね!
楢井進さん(ならいすすむ)
1957年、三重県生まれ。中央大学卒業後、堅実な業界ということで、江ノ電株式会社入社。プロパーで初の社長就任。多忙の中での現在の楽しみは、全国のお城巡りと温泉とか。
江ノ島電鉄株式会社
https://www.enoden.co.jp